昔は、導入直後の子供のピアノ曲といえばバイエルでした。
フランスで学ばれた先生のお弟子さんは、メトードローズを使われていることもあったようですが、バイエルが圧倒的シェアを占めていました。
しかし、最近は導入期にバイエルを使われる先生はあまりいらっしゃらないようです。
私もバイエル上巻はまず使うことはなく、導入には「バスティン」、「バーナム」、「ドレミランド」、「オルガンピアノの本」、「グローバー」、「ぴあのどりーむ」の6種類用意してあり、その中から生徒さんと相性の良さそうなものを適宜選ぶことにしています。
では、なぜバイエルを使わないのか、その一番の理由は、なかなかヘ音記号が出て来ないからです。
バイエルは、まずト音記号を読めるようにして、両手でかなり弾けるようになってからヘ音記号を読めるようにする、という組み立てなのですが、それではなかなかヘ音記号が読めるようにならないのです。ト音記号はスラスラ読めるのに、ヘ音記号は線と間を数えないとわからない、、という状態を作ってしまいます。
もちろん、それからヘ音記号に慣れるように訓練することはいくらで可能ですが、そもそもト音記号とヘ音記号は上下に繋がっているものなので、分けて考えない方が良いのかも知れません。
ピアノの鍵盤の真ん中の【ド】、この音符は大譜表で見るとト音記号でもヘ音記号でも同じ場所に位置します。当たり前のようで、これが重要です。
この真ん中の【ド】を中心にして、上に行く音に対して使われているのがト音記号、下へ行く音に対して使われているのがヘ音記号なわけですから、つまり最初から一緒に覚えてしまう方が理に適っていますね。
では、バイエルの魅力とはいったい何なのか?それは、その曲の美しさだと思います。
バイエルの曲はメロディーが美しく、大変魅力的です。曲数もたくさんあり、どんどん触れることで表情豊かな音楽が次々と体に染み込んできます。
そのために、子供達がバイエルに全く触れないのは大変もったいなく思い、私はブルグミュラー25の練習曲に入る手前で、バイエル下巻からお子さんの好みに合わせて抜粋して使用しています。
もう一つ、バイエルには曲に題名がつけられていません。それが小さなお子さんには取っ付きにくのでは、というご意見もあるようですが、そこに関して私はむしろ逆に考えており、子供達自身に題名をつけてもらう、という楽しさを味わってもらっています。
曲を知り、どのような雰囲気が表されているのかを考えることは、想像力ひいては表現力をつける良い経験にもなりますし、自分のオリジナルのネーミング、というのはシンプルに楽しいです。
子供達は大喜びで題名を考え、自分でつけた題名から連想されるイメージが聴き手に伝わるように、皆心を込めて演奏します。
私も昔、室内楽導入のための楽譜《しつないがく・はじめの一歩》の制作に携わった際、バイエルの4曲に題名をつけましたが、あれこれ考えるのが非常におもしろかったです。
時々、「家にバイエルの楽譜があるのですが、バイエルはやらないのでしょうか?」というご質問を受けることがありますが、バイエル世代の保護者の皆様もバイエルをご存じない方も、お子様にはバイエルの名曲には触れて頂きますので、どうぞ楽しみにしていて下さい。